開襟シャツ&昭和エッセイ シュガ・プラム・フェアリ  
 
 エッセイ
  当サイトでは気ままに60年代以降の昭和の思い出をエッセイとして綴っています。記憶違いや思い込
 み、うろ覚えで書いたものもあります。ご理解いただいたうえ、お読みいただければと思います。また、
 このような性質のエッセイですので、記述に誤り等ございましたらBBSでご指摘いただけると幸いです。
  力道山  ’60s
 4、5年前になるが、ソル・ギョング、中谷美紀主演の日韓合作映画「力道山」が封切られた。当時ちょうど懐かしさから力道山に関する本を読んだ直後だったこともあり、映画館に観にいった。その作品が最近、たまさか観ていたケーブル・テレビで放映されたので、力道山のことを思い出した。
 力道山といえば、我々の世代にとっては強いけれども子供には優しい「日本の英雄」であった。もちろんテレビのプロレス中継で、デッカイ外国人を空手チョップでなぎ倒すプロレラーとして、胸のすく光景を見せつけてくれることも憧れの一因だ。だがそれ以上に、タレントとしての力道山こそが、当時の子供にこのような印象を植えつけた。子供には優しい力道山……

 60年代のアタマに少年マガジンに連載されたマンガ、「チャンピオン太(ふとし)」。原作・梶原一騎(本作がデヴューだそうだ)、作画・吉田竜夫によるこのストーリーに、力道山はじめ当時の日本プロレスの実在のレスラーが登場していた。これがテレビで実写版で制作され、このドラマにマンガどおりに力道山が俳優として登場したのた。力道山だけではない。当時の花形レスラー、遠藤幸吉豊登吉村道明なども出演していた(気の毒に、猪木寛至は吼えるだけの「死神酋長」という悪役で出ていた)!

 この物語で力道山は、彼のもとに入門した少年レスラー太を、ときに厳しくときに優しく育てる「先生」として描かれていた(子供のプロレスラーというのも荒唐無稽だが、太の必殺技は飛行機投げで、大男を投げ飛ばしていた)。そして、力道山はそのイメージをみごとに演じていたので、私などはリング上での猛々しさとドラマで見せる優しい笑顔とのギャップにすっかりやられてしまったものだ。そう、力道山の笑顔は天下一品の魅力があった。「リキ・ホルモ」という名前の、今でいう栄養剤(強壮剤?)のCMで、とびきりの笑顔を見せていたのが忘れられない。
 リアル・タイムではないが、私は力道山主演の映画も何本か観た

力道山の笑顔 
ことがある。その中でいちばん印象に残っているのが「怒涛の男」という自伝(的)映画だった。これによると長崎の貧しい農村で生まれた百田光浩少年は子供の頃から力持ちで、それを買われて力士になる。苦労して関取になるが、部屋の親方と相撲をめぐって意見が合わず髷を切る。そしてプロレスの世界へ…… という美しい描かれ方だった。
 私が力道山の影の部分を知ったのは、彼が暴漢に刺されてこの世を去った頃(63年の暮)だった。それまでは、そのプロレスのストロング・スタイルそのままにクリーンな人だとばかり信じ込んでいた。彼の死亡のニュースは、自らも大のプロレス・ファンだった父から聞かされた。最初は力道山の死そのものが信じられなかったが、死因がヤクザに刺されたためだと聞いて私はますます困惑した。「ああいう派手な仕事はどうしたってヤクザと関わりができやすいんだよ」と父は言っていた。それから「力道山は日本人じゃないんだ。朝鮮出身なんだってさ」とも教えてくれた。子供ながらに、1つの偶像が崩れ落ちた気がした。
 力道山に関する本を読むと、彼がどれほど辛い思いをして身を立てたかがわかると同時に、いかに激しい気性の男だったかもよくわかる。特に酒を飲むと手がつけられなかったようで、大暴れするだけじゃなく後輩や弟子をやたら殴ったり、彼らにガラスのコップを食べさせたり…… それに、あの黒タイツは相撲時代、弟弟子の若乃花をしごいて、そのあまりの仕打ちに腹を立てた若乃花が噛みついた傷跡を隠すためだったという話まである。この本を子供の頃に読まなくてよかったと思った。付き人だった猪木は毎日ボコボコにされていたなんて知っちゃうと、子供としては夢が壊れて大きなショックを受けたことだろう。
 暴力団との関係も含めて、力道山の人間性についての問題は指摘されてきたところである。冒頭で述べた映画でも、オブラートに包んではいるが彼の問題点を描いていた(「怒涛の男」と違って、こちらは朝鮮からやってきたという設定だった)。真実はわからないにしろ、様々なエピソードを知るにつけガッカリさせられたこともあったが、改めてこの映画を観てみると、力道山がリングの上で外国人をやっつけることであの時代…… 戦争の記憶が強く残っていた日本人が大いに盛り上がったという事実に変わりはないことに気づく。そう、彼はまぎれもなく日本人にとってのヒーローだったのだ。そしてもう1つ。その日本人を熱狂の渦に巻き込んだ当人が日本人ではなかったというのも皮肉な事実であった。
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